2児の母、託された世界の経験と若手育成
日本女子テニス界で数多くの輝かしい実績を残してきた47歳の杉山愛さんが8月18日、女子の国別対抗戦ビリー・ジーン・キング杯の日本代表新監督に就任した。
テレビのコメンテーターや2児の母親としても多忙を極める中、女子ダブルスで四大大会を3度(全仏、ウィンブルドン、全米)制覇し、シングルスでも世界ランキングで最高8位をマークした「レジェンド」の起用は驚きの人事でもあった。
期待されるのは17歳でプロに転向し、34歳の引退まで長く日本が誇る歴代最高のオールラウンド選手として活躍した世界での経験と次世代の育成だろう。任期は2026年まで4年間。男子の国別対抗戦デビス杯では添田豪が今季限りで現役引退し、日本の指揮を執る。
杉山さんは、日本テニス協会広報部の公式ツイッターで「選手時代はフェドカップ(当時の呼び名)でかけがえのない経験をさせてもらった。監督という全く違う立場ですけど、選手を中心に考え、選手、スタッフと良いコミュニケーションを取って、素晴らしいチームジャパン、女子だけでなく男子とも力を合わせて、日本のテニス界を思いっ切り盛り上げていきたい」とトレードマークの笑顔で抱負を語った。
四大大会シングルス連続出場でギネス記録も
杉山さんは4歳でラケットを握り、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位に輝いた。現役時代はツアー通算シングルス6勝、ダブルス38勝。特筆すべきは過酷なツアーで大きな怪我もなく長期間にわたり活躍を続け、四大大会シングルス本戦連続出場62回という当時のギネス記録を樹立したことだろう。ロジャー・フェデラー(スイス)にその後記録は塗り替えられたが、その偉大さは証明されている。
五輪には1996年アトランタ大会から2008年北京大会まで4回連続出場。引退後は自身の名を冠した大会「Ai Sugiyama Cup」設立や世界を目指すジュニア育成プロジェクトにも尽力している。
ポスト「大坂なおみ」も見据えた選手強化
女子テニスの世界ランキングを見ると、日本勢はトップ100に大坂なおみ(フリー)と土居美咲(ミキハウス)の2人しかいないのが現状だ。
四大大会4度の優勝を誇る元世界1位の大坂なおみも8月22日付ランキングでは44位。日本代表新監督に抜てきされた杉山さんには屋台骨となる大坂のチーム復帰とともに、「ポスト大坂なおみ」も見据えた選手強化が求められそうだ。
2020年9月17日、国際テニス連盟(ITF)が国別対抗戦フェド杯の名称を「ビリー・ジーン・キング杯」に変更した理由には、女子ツアーを統括するWTA創立者で名選手だったキングさんの名前を入れることで、大会の地位向上などを目指すことにあった。
この際、大坂なおみはビデオメッセージで登場し「自分にとってもさらに価値がある大会になる」とコメントしている。
今年の四大大会、全仏オープンでは混合ダブルスで柴原瑛菜(橋本総業)がウェスリー・コールホフ(オランダ)とペアを組んで優勝しており、次世代の新たな風も吹く。
世界を知る杉山愛さんがその情熱と経験を若い世代に注ぎ込み、日本テニス界が長期戦略でどんな化学反応を起こしていくか。「チーム杉山愛」の躍進に期待が高まりそうだ。
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