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【天皇賞春回顧】孤高のステイヤー・フィエールマン! 連覇を決めた勝因とは?

2020 5/4 11:38勝木淳
2020年天皇賞春位置取りインフォグラフィックⒸSPAIA
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連覇を阻む壁

京都競馬場の円形パドックを囲むように色鮮やかな優しい花が飾られていた。淀の春、そのクライマックスである天皇賞(春)のパドック。無人ではあまりに寂しすぎる、少しでも京都の春を盛りあげようという職員たちの心が咲かしたパドックだった。

淀の坂越え2マイル。天皇賞(春)はその歴史と伝統とともに関西の競馬ファンに長年愛されてきた。メジロマックイーンの連覇、3勝目を阻んだ関東の刺客ライスシャワー、ナリタブライアン、マヤノトップガン、サクラローレルの三強決戦、テイエムオペラオーの連覇、イングランディーレ、スズカマンボらが起こした大波乱、ディープインパクトの伝説、残り1000m大マクリ、そしてキタサンブラックの連覇。

名勝負を見守ってきた今のスタンドが最後に見つめる天皇賞(春)はまさかの無観客。我々は競馬史に刻まれる一戦を京都競馬場の新スタンドで振り返る日が来ることを心待ちにしている。

心のこもったパドック、その隊列の後方を歩くフィエールマンは8枠、連覇の壁は枠順だった。ピンク帽子は過去10年で12年オルフェーヴル1人気11着を含め勝ち馬なし。内枠有利なGⅠにおいてこれ以上ない不利である。

勝負をわけた“ルメールの執念”

フィエールマンは大外枠ゆえにスタート直後から終始中団馬群の外目を追走。コーナーでは当然ながらインコースの馬より長い距離を走らされる。無観客を味方に落ち着きを取り戻したダンビュライトがつくるペースは1000m通過1分3秒0。

この日は課題だったスタートを決めたキセキは正面スタンド前でエキサイトしないように武豊騎手に馬群から離され慎重に先頭に立つ。キセキが作った中盤の1000mは1分0秒4、己を削ってつくる淀みない流れのなか、ミッキースワローやメイショウテンゲンが外から動いたことでフィエールマンはようやく馬群に入る形になった。

2周目向正面でひと息ついたことが大きかった。最後の直線で粘るキセキ、それを追ったダンビュライト、インを攻めたユーキャンスマイル、フィエールマンより先に外を動いたミッキースワロー、みんなゴール前は脚があがっていた。伸びたのは終始インコースで潜んでいた伏兵スティッフェリオとフィエールマンのみ。2頭の着差はハナ。

3200mを走り、わずかな差だっただけに敗れたスティッフェリオは悔やんでも悔やみきれない。これ以上ないレース内容であり、敗因など見当たらない。勝負を決したという意味ではフィエールマンのルメール騎手がゴール板直前に右から左にステッキを持ち替え、最後に入れた強烈な2発の叱咤ではないか。ルメール騎手はよくゴール寸前にこうしてステッキを入れる姿をよく目にする。フィエールマンも左から飛んできた2発のステッキで首をグイっとさらに前に差し出したように見える。連覇をかけたルメール騎手の執念が勝利を手繰り寄せたのだ。

別視点で考える“天皇賞(春)”

春の盾を連覇したフィエールマンは文句なしの現役最強ステイヤーである。先に抜け出し最後まで抵抗したスティッフェリオもまたしかり。

だが、現状ではステイヤーと呼べるようなスタミナを有した馬が少ない。天皇賞(春)のゴール前はそれを象徴するようではあった。最後の1ハロンまで伸びた馬は1、2着馬以外にいなかった。3着以下はバテ比べ、粘ったもの勝ちのようなだった。

3200mを走り切るような馬づくりが主流ではないことは承知しつつも天皇賞(春)は距離を縮めずに3200mで施行している。そこを目指す馬づくりは必要ないのだろうか。現在のレース体系では3000m超を得意とする馬はなかなか勝ちあがれない、それはわかる。

では天皇賞(春)はなぜ芝3200mなのか。ステイヤーなき時代の孤高のステイヤー・フィエールマンが連覇した天皇賞(春)は伝統と格式、そして競馬ファンが愛する長距離戦について考えさせられる一戦でもあった。 ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『 築地と競馬と』でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』にて記事を執筆。