忘れられないマヤノトップガンの驚異の切れ味
この時期になるとマヤノトップガンのことをよく思い出す。1996年の阪神大賞典でのナリタブライアンとの一騎打ちや、1997年の天皇賞(春)にてサクラローレル、マーベラスサンデーらをねじ伏せた物凄い末脚は、四半世紀が過ぎた今でも色褪せない。
今週は5月4日に天皇賞(春)が行われる。昨年の菊花賞2着馬でダイヤモンドSを快勝したヘデントール、阪神大賞典を6馬身差の圧勝劇で制したサンライズアース、一昨年のこのレースの勝ち馬でその後もGⅠ戦線で好走を続けるジャスティンパレスが上位人気となりそうだ。
そこで今回はこの3頭を比較し、どの馬が今回の舞台に向いているかを調べていく。
ルーラーシップ産駒は京都では苦戦傾向
まずは改修後の2023年4月22日から2025年2月23日までに京都競馬場の芝のレースで行われた種牡馬別成績をみていく。

<京都芝コース 3頭の種牡馬別成績>
ルーラーシップ産駒(ヘデントール)
【11-11-15-144】勝率6.1%/連対率12.2%/複勝率20.4%
レイデオロ産駒(サンライズアース)
【9-3-10-95】勝率7.7%/連対率10.3%/複勝率18.8%
ディープインパクト産駒(ジャスティンパレス)
【18-16-14-108】勝率11.5%/連対率21.8%/複勝率30.8%
集計期間:2023年4月22日~2025年2月23日
まずはルーラーシップ産駒だが、この勝率は本州にある7つの競馬場の中ではワーストとなっている。これは勝率が一番高い阪神競馬場の14.1%と比較すると半分以下の数値だ。二桁の勝ち星があるのでそこまで気にすることはないのかもしれないが、強気にはなれない。
2023年に子供たちがデビューしたレイデオロ産駒は9勝をマーク。うち8勝が1勝クラス以下で、残りの1勝が昨年の白百合Sでミナデオロがあげたものだ。まだ重賞は5走のみで、昨年の菊花賞ではアドマイヤテラが3着となっていることを考えれば、複勝率は低いとはいえ期待を持っても良いのではないだろうか。
ディープインパクト産駒は徐々に現役馬が少なくなってきたとはいえ流石の成績。改修後の天皇賞(春)でジャスティンパレスが優勝し、GⅡは今年の京都記念のヨーホーレイクをはじめ4勝、GⅢも1勝している。全盛期のような圧倒的な数値ではないかもしれないが軽視はもちろんできない。
ディープインパクト産駒はGⅠを8勝
次に、競馬場を問わず2400m以上の長距離戦に絞って掘り下げてみていく。

<芝2400m以上 3頭の種牡馬別成績>
ルーラーシップ産駒(ヘデントール)
【31-42-35-315】勝率7.3%/連対率17.3%/複勝率25.5%
レイデオロ産駒(サンライズアース)
【7-7-3-36】勝率13.2%/連対率26.4%/複勝率32.1%
ディープインパクト産駒(ジャスティンパレス)
【65-63-59-502】勝率9.4%/連対率18.6%/複勝率27.1%
集計期間:2020年4月4日~2025年4月20日
ルーラーシップ産駒はこの条件下において全体で8位の成績を残している。気がかりなのは集計期間中のGⅠでの成績は【0-1-0-17】で、あと一押しが足りていないことだ。
気になって産駒のデビューした時期まで遡ってみて驚いたのだが、過去の成績は【1-3-0-32】で2017年にキセキが菊花賞を勝利したのが唯一のGⅠ制覇だった。ほかはマイルGⅠでの勝ち鞍で、ルーラーシップの現役時代の成績を考えると少々意外な結果となった。
レイデオロ産駒はまだ傾向を掴みきれていないが、やはり距離が伸びたほうが良いタイプなのは間違いない。特に2600mを超えてくると【5-3-1-9】と複勝率は50%で好成績を残している。
ディープインパクト産駒は出走回数が多いとはいえ、2位につけている47勝のゴールドシップ産駒を大きく引き離して断トツの勝ち星をあげている。集計期間中の直近5年間だけでもジャスティンパレスの他に、コントレイル(3勝)、フィエールマン、ワールドプレミア、シャフリヤール、アスクビクターモアがGⅠを制覇。やはり種牡馬成績の面では一歩抜けた存在といえるだろう。
騎乗予定の3騎手とも京都で好成績
次に3名の騎乗予定騎手が改修後の京都競馬場でどのような成績を残しているのかみていく。「長距離は騎手で買え」といった格言があるように、騎手は長距離戦における重要なファクターの一つ。3名のデータはしっかり押さえておきたい。

<京都芝コース 3頭の騎乗予定騎手成績>
D.レーン騎手(ヘデントール)
【3-1-1-2】勝率42.9%/連対率57.1%/複勝率71.4%
池添謙一騎手(サンライズアース)
【16-12-14-121】勝率9.8%/連対率17.2%/複勝率25.8%
鮫島克駿騎手(ジャスティンパレス)
【22-24-19-141】勝率10.7%/連対率22.3%/複勝率31.6%
集計期間:2023年4月22日~2025年2月23日
D.レーン騎手は騎乗回数が少ないとはいえハイアベレージをマークしている。天皇賞(春)では直近で2023年にシルヴァーソニックに騎乗し6番人気で3着。7戦中1番人気馬への騎乗は1度のみにもかかわらず、掲示板を外したのはわずか1回だけ。当然、注目のジョッキーになる。
池添謙一騎手はプラダリアとのコンビでGⅡを2勝。クラスの偏りもなくオープンから未勝利まで勝利を挙げており、安定感がうかがえる。
鮫島克駿騎手は改修後の京都競馬場では7位となる22勝をマーク。全国10場の中でも期間内に一番多くの勝ち星をあげているのが、ここ京都だ。重賞もジャンタルマンタルで2023年のデイリー杯2歳Sを制しており、同年のファンタジーSでは12番人気のシカゴスティングを3着に導いた。こちらも京都ではおさえておきたいジョッキーだ。
レーン騎手が圧倒的な安定感
京都競馬場での成績を見ていくと3名とも極端な穴はなく、レーン騎手の成績が目立つ形となった。では長距離実績はどうなのか、京都に限らず全10場の2400m以上の成績をみていこう。

<芝2400m以上 3頭の騎乗予定騎手成績>
D.レーン騎手(ヘデントール)
【12-5-9-22】勝率25.0%/連対率35.4%/複勝率54.2%
池添謙一騎手(サンライズアース)
【15-9-7-72】勝率14.6%/連対率23.3%/複勝率30.1%
鮫島克駿騎手(ジャスティンパレス)
【15-10-13-110】勝率10.1%/連対率16.9%/複勝率25.7%
集計期間:2020年4月4日~2025年4月20日
やはりレーン騎手の成績が素晴らしい。数値以上に「4回に1回は勝利し、3回に1回は連に絡み、2回に1回以上は馬券圏内に入っている」と表現すると、より凄さが際立ってくる。2023年にはテン乗りのタスティエーラで日本ダービーを制覇したのも記憶に新しい。
池添騎手も好成績を残している、勝率14.6%は10勝以上をマークしている騎手が23人いる中で6位の成績だ。複勝率も30%オーバーで頼りになる騎手といえる。
鮫島騎手も池添騎手と同じく15勝をマーク。気になるのはこの距離の重賞で最後に馬券に絡んだのが、昨年の青葉賞2着のショウナンラプンタ騎乗時で1年以上遡らねばならないということ。単勝オッズ一桁台の人気馬にはこの間に1度しか騎乗していないとはいえ、少々不安なデータだ。また、GⅠの舞台では【0-0-1-8】という点も気がかりである。
総合的にはサンライズアースが一歩リード
種牡馬実績と騎手成績とでこの3頭を比較すると、天皇賞(春)の舞台に一番適しているのはサンライズアースといえるのではないだろうか。
ヘデントールはレーン騎手が騎乗するという点でかなり魅力的なのだが、ルーラーシップ産駒の長距離GⅠでの苦戦ぶりがどうしても気になる。近5年間で唯一掲示板を確保しているのが本馬の昨年の菊花賞だということも重々承知しているのだが、評価をひとつ下げた形だ。
ジャスティンパレスはディープインパクト産駒の成績が圧倒的なのだが、鮫島騎手の長距離での成績がレーン、池添両騎手と比較するとどうしても見劣ってしまう点が懸念として残った。
サンライズアースの場合は、今回の比較検討の中で穴がなかったことが一番のポイント。池添騎手にとって天皇賞(春)はオルフェーヴルをはじめ過去16度挑戦してまだ掴めていないタイトルなだけに、阪神大賞典を制し勢いに乗るパートナーとともに初勝利を期待したい。

《ライタープロフィール》
高橋 楓
秋田県出身。サクラローレルの馬体の美しさに魅せられて競馬の世界に惹きこまれる。他に好きな馬はホクトベガ、サイレンススズカ。競馬、ボートレースの記事を中心に執筆している。
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